2012年8月31日金曜日
01 こんにちは、ポーダーさん(後編)
「ちょっと起こさないとね~。
まあこの時間は普通、流石に起きてないわよね。」
「…えっ?」
「起こしてもまあ、怒らないから大丈夫よ♪」
そういうことを言ってるんじゃないんですが、と言う暇もなくレイラはベッドの方へ近寄っていった。
萩もその後に続く。
(うわぁ……凄く綺麗な人だな…肌とか色白で身体付きも細めで何だか……い、いや何考えてるんだ…)
萩の目に飛び込んできたレイラにボス、先ほどはニナ、と呼ばれている女性はベッドの上で丸くなって小さな寝息を立てている。
薄暗い部屋のせいか、どこか弱々しくて妖艶な雰囲気を感じ取ってしまった。
あどけない口元が少し開いているのが可愛らしく思う。
「まったく、呑気に寝ちゃって…。
ほら、お客さんよ! ニナ、起きて起きて。」
レイラがゆさゆさとニナの身体を優しく揺さぶるとか弱い呻き声がニナから漏れる。
そしてゆったりとした動きで起き上がると気持ちよさそうに背伸びをした。
「ふあぁ~……。」
「起きた? ほらまた新たな家政婦候補が来たわよ♪」
(また?)
レイラから聞こえた不穏な単語に少しばかり不安になる萩。
そんなことはつゆ知らず、ニナはゆっくりとした動きのままベッドの上に座り、萩をじっと見つめる。
「あ、あの…えっと、藤和萩と言います。
チラシを見て、やって来たんですけど…まだ募集してるんですよ、ね…?」
「 ……うん。」
「何か特別な資格とか、そんなの要るんですかね…?」
「要らない。」
淡々としたニナの口調と表情にざわざわとした不安に揺さぶられる萩。
レイラは溜息を吐きながら、やれやれと言った様子で口を開いた。
「まだ寝起きなのもあるけど、ニナはいつもこんな感じだからそんなに緊張しないでいいわよ♪」
「…そ、そうなんですか?」
「……うん。」
ほっ、と安心できた萩をニナは目線を逸らすことなくじっと見つめたままでいる。
萩は気にしないように、と思いながらもニナの変わった瞳に見られていることを意識してしまっている。
恋とはまた別の、何だか激しい動悸がする。これは一体?
そんな疑問を持ちつつ、隣からのレイラの声に安心しながらもニナと会話をしていく。
(……この人間、一応察してるみたいね。狩りの視線に気付けるんだ。)
「……取りあえず、仮採用でいい?」
「えっ!?」
「一応全員の意見も聞きたいし、面接兼顔合わせして、1週間ほど働いてもらいます。」
「はっはい!よろしくお願いします!」
嬉しい。これで宿無しで夜の都会をふらつく、なんてことはないのだ!
萩はニナを崇めたいほど嬉しくなり、表情に笑顔が広がる。
そんな萩を置いて、レイラがニナに話しかけた。
「ねえニナ、いいの?」
「何が」
「だって、あいつ絶対にグチグチ言うわよ、萩君に。」
「うん、言うだろうね。」
「いいの?」
「前回の家政婦候補イビリ倒したこと?」
「そうよ!折角よかったのにィ」
はぁ、とニナが小さいため息を吐きながらレイラに返した。
「そんなに子供じゃないでしょ。
次また騒動を起こしたら直々に叱るよ。」
「それで収まればいいけどねェ…。」
「さっきから、どうかしたんですか?」
二人がコソコソと話しているのに気付いた萩が声をかけた。
「…別に。」
「まぁ打ち合わせをしてただけよ♪」
「め、面接のですか?」
「うん。」
何気ない会話を交わしながら、3人は部屋を出て萩の面接をするため、下の階へ降りて行った。
→波乱の顔合わせに続く。
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